他の国々の言葉で

~聖霊降臨がもたらした福音宣教~

2021年6月のメッセージ

司祭グリゴリイ水野 宏

エル・グレコ「聖霊降臨」

正教会では、今年は6月20日が「聖五旬祭」(ペンテコステ)です。聖五旬祭とは、旧約の信仰(今日のユダヤ教)においては過越祭から50日目の祭日のことでしたが、キリスト教においては「新約の過越」、すなわち復活祭から50日目の祭日となります。
この聖五旬祭では新約聖書の使徒言行録(日本正教会訳では聖使徒行実)第2章に記された聖霊降臨(日本正教会訳では聖神降臨)という出来事が記憶されるのですが、この聖霊降臨がもたらしたものは何だったのでしょうか。

キリストの復活と昇天の後、聖五旬祭の日の朝、使徒たちが集まっているところに突然暴風のような音が天から聞こえ、使徒たちの頭上に炎のような舌が現れました。すると彼らは「聖霊に満たされ、霊が語らせるままに、他の国々の言葉で話しだし」(使徒2:4)ました。
当時のエルサレムには諸国出身のユダヤ人が住んでいましたが、物音を聞いて集まった彼らは、使徒たちが彼らの母語で会話しているのを聞いて驚き、口々に言いました。
「この人たちは、皆ガリラヤの人ではないか。どうして私たちは、めいめいが生まれた故郷の言葉を聞くのだろうか」(使徒2:7-8)
すると使徒たちは立ち上がり、ペトロが代表して話し始めました。その内容は、ナザレのイエスこそ旧約聖書で預言されたメシア(救世主)である。皆はイエスを十字架につけて殺してしまったが彼は復活した。自分たちはその証人である。そして今起きていることはイエスが約束した聖霊が注がれているところである、ということでした。
そして、ペトロの言葉を受け入れた約三千人の人々が洗礼を受けました。これが「教会」の誕生です。

使徒たちはかつて労働者階級に属しており、高等教育を受けていませんし(後に使徒となったパウロを除く)、外国に行ったこともないので、外国語ができたはずはありません。
つまりこの出来事は聖霊の働きにより、言い換えれば神自身の助けによって、使徒たちが全世界に向けて福音を宣べ伝え、人種や民族を問わず全ての人々を救いに招いているという証しなのです。
正教会はこの考えに基づき、古代教会時代からその民族が理解できるよう、聖書や祈りを原語のギリシャ語から諸言語に翻訳し、宣教を行ってきました。ロシア経由で伝わった日本の正教会も、ロシア語や教会スラヴ語ではなく、日本語に翻訳された聖書と祈りを用いています。
この伝統に従い、言語の翻訳だけに限らず「相手が理解できるような宣教」を、私としても模索し、心がけていきたいと考えています。